一分銀

掌にある
歴史の重み

一分銀、それは江戸の残り香。

スクロール

八・六グラムの
物語

指先に伝わる、冷ややかな銀の感触。
約8.6グラムのその小さな長方形には、
かつての日本の熱狂と、静寂が閉じ込められている。

天保、安政、明治。
激動の時代を駆け抜けた銀貨は、
今、あなたの掌で何を語るのか。

手替わりという
愉しみ

一分銀の魅力は、その「不完全さ」にある。
手作業で作られた極印(金型)は、一つとして同じものはない。


文字のハネが少し大きい「ハネ分」。
点が玉のように丸い「玉座」。
これらは「手替わり」と呼ばれ、収集家の心を掴んで離さない。


代表的な手替わり:
  • 長柱座(ちょうちゅうざ):「座」の柱が長く伸びる天保の変種。
  • 玉座(ぎょくざ):「座」に玉ごとき点が宿る安政の希少種。
  • 交叉是(こうさせ):「是」の画が交わる、職人の遊び心か。

それはまるで、200年前の職人が残した暗号。
歴史はミステリーであり、
正解のない問いを愛でることもまた、一興である。

一分銀の接写

真贋を見極める眼

偽物もまた、歴史の影。
しかし、本物を知ることで、その輝きはより一層増す。

⚖️

重さ(量目)

本物は約8.63g〜8.66g。
8gを下回る軽さや、9gを超える重さは、
銀ではない何かが混じっている証左かもしれない。

🌸

側面の桜

天保一分銀の側面には、三つの桜が咲く。
その中の一つ、「逆桜」の位置が真実を語る。
安政ならば、荒々しいヤスリ目が時代を映す。

側面の桜
✒️

刻印のキレ

本物の文字は、刀で切り裂いたように鋭い。
ぼやけた輪郭、甘い線は、
後世の模造品が持つ独特の「緩み」である。

※これらはあくまで目安であり、歴史の真実は常に諸説の中にあります。
最終的な判断は、専門家の眼に委ねることをお勧めします。

正解なき
問い

二百年の時は、多くの真実を霧の彼方へと隠した。
今日「正真」とされるものが、明日は覆るかもしれない。
文献は失われ、口伝は途絶え、残されたのは銀貨のみ。

しかし、その「分からなさ」こそが、
我々を惹きつけてやまない。
情報の不確かさを許容し、
自らの眼と感性で歴史と対話する。
それこそが、古銭収集の真の醍醐味ではないだろうか。